自社株式を後継者に移転・集中させるための取り組み
中小企業庁委託「中小企業における事業承継に関する調査」(2014年2月)によると、経営者の約6割は、過半数を超える自社株式を個人で所有しているそうです。事業承継の際、このように所有と経営が一致した状態で自社株式を後継者に移転・集中させるにはどうしたらよいでしょうか。今回のコラムでは、自社株式を後継者に移転・集中させるための取り組みについて考えます。
1.自社株式の移転に伴うリスクの存在 現経営者に自社株式や事業用不動産以外に目立った財産がない場合、財産の分け方を指定せずに相続が発生すると、法定相続で自社株式が分散して経営が不安定になる恐れがあります。また、財産の分け方には①売買、②相続、③贈与という方法がありますが、いずれにしても後継者には買取資金や納税資金など多額の資金が必要になる場合もあります。
2.事業承継後の経営を安定させるうえで大切なこと ところで、事業承継後の経営を安定させるうえで大切なことは何でしょうか。それは、後継者が迅速に意思決定できる環境を整えることです。そのために重要となるのが、会社の重要事項を決議する株主総会を左右する議決権のある自社株式を、後継者に移転・集中させることです。取締役の選解任や決算の承認を可決する普通決議であれば過半数以上、定款の変更や事業譲渡を可決する特別決議であれば3分の2以上の議決権付株式を所有していれば重要事項を可決できるからです。
3.自社株式を後継者に移転させるための取り組み では、議決権のある自社株式を後継者に移転・集中させるためにどのような取り組みを行えばよいでしょうか。私は、2つあると考えています。一つは、議決権のある自社株式の移転方法を現経営者があらかじめ決めることです。法的拘束力の強い公正証書遺言を活用すれば、法定相続で自社株式が分散するリスクを回避できます。 もう一つは、資金対策を後継者があらかじめ計画的に進めることです。低利で融資を受けられる融資制度や遺留分に関する民法の特例を活用すれば、資金調達というリスクを回避できます。
4.とても大切な事前対策 本人の意志に反して、ある日突然事業承継がやって来るかも知れません。その時になって慌てることのなきよう、①自社株式を後継者に移転・集中させる方法、②必要な資金の用意などの対策を事前に行っておくことが、現経営者、後継者の双方に求められます。